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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)8号 判決

原告

浙江省軽工業品進出口公司

右代表者

周芳根

右訴訟代理人弁護士

佐々木静子

被告

株式会社タケヤリ

右代表者代表取締役

武鑓和夫

右訴訟代理人弁護士

高木喜孝

主文

一  中華人民共和国国際経済貿易仲裁委員会が一九九一年一月三〇日付けでなした別紙記載の仲裁判断に基づいて原告が被告に対し強制執行をすることを許可する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は中華人民共和国(以下単に「中国」という。)の法人(企業法人)であり、被告は日本国の法人(株式会社)である。

2  原告は被告との間で、一九八五年五月一二日、被告の編み袋を生産する設備を導入する契約を締結し、右契約から生じる紛争については中国国際経済貿易仲裁委員会の仲裁により解決する旨合意した。

3  右契約の履行につき紛争が生じ、両当事者の協議による解決を試みたが話し合いがつかなかったので、原告は一九九〇年三月二二日中国国際経済貿易仲裁委員会に仲裁の申請(事件番号(九一)貿仲字第〇三七五番)をなし、右仲裁委員会は一九九一年一月三〇日別紙記載の仲裁判断(以下「本件仲裁判断」という。)をし、本件仲裁判断は確定した。

4  日本と中国の間には、日本国と中華人民共和国との間の貿易に関する協定(昭和四九年六月一五日条約第四号、以下「日中貿易協定」という。)が存し、両国は外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(昭和三六年七月一四日条約第一〇号、以下「ニューヨーク条約」という。)に加入している。

5  原告は当裁判所に対し、ニューヨーク条約に従い正当に認証された本件仲裁判断の原本及び中国駐大阪総領事館領事による証明を受けた本件仲裁判断の日本語への翻訳文を提出した。

よって、原告は被告に対し、右協定及び条約に基づき、本件仲裁判断につき執行判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同3のうち中国国際経済貿易仲裁委員会が一九九一年一月三〇日、原告被告間の仲裁申請(事件番号(九一)貿仲字第〇三七五番)につき、本件仲裁判断をし、被告が送達を受けたことは認める。

三  被告の主張

日本は一九六一年ニューヨーク条約加入にあたり同条約一条三項による宣言を行い、同条約の適用を受ける外国仲裁判断を同条約加入国の領域においてなされた仲裁判断に限定し、中国も同条約に加入するに際し同様の留保を行っているから、日本及び中国は外国仲裁判断の承認及び執行に関し相互主義の原則に基づくとしている。またニューヨーク条約七条は同条約締結国が締結する仲裁判断の承認及び執行に関する多数国間又は二国間の合意の効力に影響を及ぼさない旨を規定している。日本は中国との間で、日中貿易協定を締結しており、同協定は前文において明示するように相互主義の原則に立脚している。ニューヨーク条約及び日中貿易協定の相互主義の観点からすれば、日本の仲裁判断が中国で執行される場合と、中国の仲裁判断が日本で執行される場合とでは、その要件は同一でなければならず、中国が日本の仲裁判断の承認、執行に関し何らかの制限を有する場合には、日本は同様の制限のもとに中国の仲裁判断の承認、執行をすればよいこととなる。

日本の仲裁判断を中国で執行する場合には、中国民事訴訟法二九六条により中国の人民法院に仲裁判断の承認、執行を申し立てることになるが、中国民事訴訟法二一九条によれば、当事者双方が法人である場合には右執行の申立期間は六か月であり、本件申立ては履行期間の最終日から六か月を経過した後に申し立てられているから、中国民事訴訟法によれば棄却される申立てである。よってニューヨーク条約及び日中貿易協定の相互主義の観点から、本件申立ては中国民事訴訟法の執行申立期間の制限により棄却されるべきである。

四  被告の主張に対する原告の反論

本件申立てはニューヨーク条約が定める仲裁判断の執行判決を求める要件を全て具備している。また中国民事訴訟法二一九条は、中国の法院において中国の仲裁機関が下した仲裁判断を執行する場合の規定であり、中国の仲裁機関が下した裁決を外国の裁判所で執行する場合や外国の仲裁機関が下した裁決を中国で執行する場合には適用されないから、被告の主張は失当である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実及び中国国際経済貿易仲裁委員会が一九九一年一月三〇日、原告被告間の仲裁申請(事件番号(九一)貿仲字第〇三七五番)につき、本件仲裁判断をし、被告が送達を受けたことは当事者間に争いがなく、証拠(〈書証番号略〉)によれば、請求原因2、4の事実及び原、被告間の契約の履行の紛争につき話し合いがつかなかったため、原告は一九九〇年三月二二日中国国際経済貿易仲裁委員会に仲裁の申請(事件番号(九一)貿仲字第〇三七五番)をなし、本件仲裁判断がなされ、右仲裁判断は確定したことが認められる。

二請求原因5の事実は当裁判所に顕著である。

三そこで被告の主張につき検討する。

前記のとおり本件仲裁判断の承認及び執行については、日中貿易協定及びニューヨーク条約が適用され(右条約七条一項により、日中貿易協定が優先的に適用されると解される部分は右協定が右条約に優先する。)、その限度において民事訴訟法は適用されないと解される。

ところで、ニューヨーク条約三条は仲裁判断が拘束力を持つ要件を指定するとともに、右要件を具備したならば、当該仲裁判断はその判断が援用される領域の手続規則に従って執行するものと規定し、日中貿易協定八条四項は両締約国は、仲裁判断について、その執行が求められる国の法律が定める条件に従い、関係機関によって、これを執行する義務を負うと規定している。右各規定に照らすと、ニューヨーク条約及び日中貿易協定上、外国仲裁判断の承認、執行の手続は、その判断が援用される国の法律に従うことで足り、それ以上に右各規定が仲裁判断の執行手続につき関係国共通の基準を定めているものではないと解される。

被告は、日中両国がニューヨーク条約一条三項の宣言を行っていること及び日中貿易協定前文(具体的には「両国間の貿易を平等互恵の原則の基礎の上に一層発展させ、」の部分と考えられる。)を根拠として、本件仲裁判断の承認、執行につき、日本の仲裁判断が中国で執行される場合と中国の仲裁判断が日本で執行される場合とではその要件は同一でなければならないから、仲裁判断の執行に関する中国民事訴訟法の規定を考慮すべきであるという内容の相互主義を主張する。しかし、右条約一条三項の定める相互主義は、ニューヨーク条約を適用する仲裁判断の範囲に関する相互主義であり、右条約は、ニューヨーク条約が適用される以上、その執行はその判断が援用される領域の手続規則にのみ従えばよいものと規定しており、他に被告主張の相互主義の根拠となりうる規定は存在しない。

また日中貿易協定前文は右協定の基本的理念となる平等互恵の理念を規定しているに止まり、右協定の平等互恵の具体的内容は第一条以下に具体的に規定されているところ、同協定八条四項は前記のとおり規定しているのであって、具体的な執行手続についてまで相互主義を採用したものでないことは明らかである。被告の主張は独自の主張であって、採用できない。

よって、本件仲裁判断はニューヨーク条約及び日中貿易協定に照らし有効であるから、日本法により本件仲裁判断に基づく強制執行を許可するのが相当である。

四以上から、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官池田亮一 裁判官遠藤邦彦)

別紙

中国国際経済貿易仲裁委員会

裁決書

申立人:浙江省軽工業品進出口公司

(原名中国軽工業品進出口公司浙江省分公司)

所在地:中国浙江省杭州市体育場路二二三番地

被申立人:株式会社タケヤリ

(原名武鑓織布株式会社)

所在地:日本岡山県倉敷市曾原四一四番地

北京

一九九一年一月三〇日

裁決書

(九一)貿仲字第〇三七五番

中国国際経済貿易仲裁委員会(原名中国国際貿易促進委員会対外貿易仲裁委員会、以下仲裁委員会と略称)は申立人浙江省工業品進出口公司(原名中国工業品進出口公司浙江省分公司)と被申立人株式会社タケヤリ(原名武鑓織布株式会社)が一九八五年五月一二日に杭州で契約した編み袋を生産する設備を導入する協定書にある仲裁条項と申立人が一九九〇年三月二二日に提出した書面仲裁申請により、前述した協定書条項のもとで編み袋生産設備性能争議の本案を受理した。

仲裁委員会は仲裁規則の規定により、費宗を首席とし、唐厚志と王益英を仲裁員とする仲裁廷を結成し、本案を審理した。仲裁廷は申立人が提出した書面申立と証拠材料及び被申立人が提出した書面答弁と証拠材料を詳しく審閲し、かつ一九九〇年九月二七日、二八日に北京で開廷して審理した。申立人も被申立人も法廷に顔を出して陳述し、弁論し、それに本案に関する問題について仲裁廷の問いに答えた。そのあと、申立人と被申立人は仲裁廷の要求に応じて補充材料を出した。

仲裁廷は合議裁判をして、本裁決を出した。

仲裁法廷の意見と裁決は以下のとおりである。

一、事件の内容

一九八五年五月一二日、申立人(買う側)はその使用者、寧波プラスチック工場八場、鎮海プラスチック工場と寧波プラスチック工場三場のために、被申立人(売る側)と中国杭州で編み袋生産設備を買い入れる協定書に調印した。この協定書により、申立人と被申立人はまた一九八五年七月一六日に八五G〇〇七号契約とこの契約を実行に移すためこの附件を結び、一九八五年九月二日に八五GIM〇〇九号契約書を結んだ。協定書と八五GIM〇〇九号契約書によると、被申立人は申立人に線引き機とスペア・パーツ、園織機とスペア・パーツなどの設備を売り、総額二六二、六五三、一〇〇円、FOB神戸であるそうだ。八五G〇〇七号契約書によると被申立人は申立人に編み袋製造設備を八台売り、総額九九、五二二、〇〇〇円で、FOB名古屋であるそうだ。

上述した協定書と契約書を結んでから、申立人は一九八六年三月と六月に二回にわたって被申立人に二七五、五二二、九四〇円払った。被申立人は設備を提供し、かつ人を派遣してきて、すえつけたり、試用したりしたが、設備は技術性能の面で契約書に書かれている技術の指標要求に達していないから、申立人に損を与えた。そのため、両方は協議して、一九八七年三月九日に賠償協定書に調印した。この賠償協定書の規定により、被申立人は以下の賠償をしなければならない。

1、申立人に一一〇、七七六、七五〇円賠償することであるが、申立人の契約書条項金を引いて、実際賠償額は三一、七四二、四三〇円になる。

2、申立人に無償で線引き機、MI―一・五―三・五、PP原料二五トンを設備の試用期間の原料損耗の補償として提供する。

3、申立人にTOYOTA HIACE一二席マイクロバスを提供する。もし提供することができなかったら、被申立人は送金する日の為替レートで二〇万元の人民券に当たる日本円を支払うことになる。

しかし被申立人はただ一九八七年五月一〇日に申立人に七、〇〇〇、〇〇〇円とPP原料一五トンを送っただけである。賠償協定書に書かれているその他の義務を果たさない。申立人はそれに対して書簡と電報で何度となく催促したが、被申立人はいろいろな口実を設けて支払うことを延ばそうと要求する。協定書に書かれている賠償義務のすべてを果たそうとしない。それに対して、申立人は仲裁に以下の要求を請求する。

(一) 被申立人は申立人に三七、七八〇、六五三円賠償すること。それは以下のものを含んでいる。被申立人は申立人に賠償すべき、まだ賠償していない残りの金額二四、七四三、〇九〇円とその利息五、三六九、二五〇円;被申立人は車を提供していないので、人民元二〇〇、〇〇〇元を申立人に賠償すべきである。日本円に換えると六、三〇〇、九九八円とその利息一、三六七、三一五円である。

(二) 被申立人は上述した条項金額の一九九〇年二月七日以後の利息

(三) 被申立人は申立人に無償で残りのPP原料一〇トンを提供すること。

(四) 申立人が仲裁を行うためにかかったすべての費用は被申立人が負担すること。

被申立人は以下のように答弁した。

本案の当事者は武鑓織布株式会社ではなく、タケヤリ化成株式会社だ(以下タケヤリ化成と略称)というのは一九八五年五月一二日に協定書に調印した時、被申立人の法定代表取締役は武鑓和夫と武鑓澄治だ。申立人の主張した武鑓昭二は一九八四年九月二一日に被申立人の代表取締役を辞退していたのだ。協定書に調印した時、彼はもうタケヤリ化成の代表取締役だ。うちあわせる時にも契約書を結ぶ時にも武鑓昭二はタケヤリ化成の代表として顔を出したり、サインしたりしたのだ。それに契約書にタケヤリ化成の印鑑がおされている。ですから本案の契約書の当事者はタケヤリ化成に変わったのだ。それについては申立人は知っているはずだ。それからもタケヤリ化成が顔を出して契約書を執行していたのだ。争議が起ってからもタケヤリ化成が顔を出して協議、相談し、解決していた。武鑓昭二は本案の当事者がタケヤリ化成であることについて説明した。ですから被申立人武鑓織布株式会社は本案の当事者ではない。

もし被申立人は上述した主張が成立できなかったら、被申立人はさらに以下のような理由を述べた。設備を点検する時、設備が契約書に書かれている技術指標に達していないのは設備の技術性能に欠陥があるわけではなく、主な原因は申立人側の基礎設備が完備していない(例えば停電、停水など)と操作能率が低い(原料が完備でない)と技術者の技術レベルが低いからだ。本案の設備は合成化学原料の上に加熱し、それを融かした上で、ノズルから引き出して、化学繊維になる。この繊維で袋を編む。原料、電気、水などの基礎施設は必要なかつ基本的な条件である。本案の設備を点検する時、申立人の使用者工場の基礎施設は契約書を結ぶ時に想像もつかなかった状態だった。原料の供給が足りないし、停電、停水の現象もある。また技術者、操作者の技術レベルが低いし、設備の技術性能に影響を与えた。

また円が値上がりになったので、申立人は値下げを激しく要求し、被申立人は設備に別に欠陥があるとも思わないし、設備があるべき技術レベルに達していない責任も申立人側にあると思ったが、日中友好のために、申立人は当時外国為替を調達しにくかったために、善意と誠意を持ってあたったわけである。

ですから申立人の賠償を請求することに対しては書面上の争論をしなかった。順調に検査の上引き取ることができるようと願って、実質上値下げをして申立人の経済上の損失を補おうとしたが、とうとう申立人が受け入れてくれなかった。そのほか藤森敬四郎氏は賠償協定書にサインしたが、少なくとも彼は当時被申立人の権力を代表していなかった。

一口に言えば、本案の紛糾を引き起こした原因は被申立人側にあるのではなく、申立人側にあるのだ。申立人側は設備を検査の上引き取る時、原料の供給の不完備と、電気、水の供給の不足と申立人の技術者、操作者のレベルの不完全などからである。被申立人はそれに対して責任を持たないのである。申立人は被申立人の答弁に対して以下のようにやり返した。

1、名称を改めた責任は完全に武鑓織布株式会社と武鑓昭二氏にある。被申立人と申立人が契約書に調印し、履行する時、始めから終わりまでずっと武鑓織布株式会社(英語の名称はTAKEYARI CO. LTD.)の名を使っていた。

被申立人の代表者である藤森敬四郎氏は何回も中国へ来て、業務を打ち合わせ、最後に武鑓織布株式会社の名で協定書の原稿に署名した。

それからこの原稿をタイプで打ったものを被申立人に送り、武鑓昭二氏がサインし、印鑑を押した。藤森敬四郎氏にしても武鑓昭二氏にしても武鑓織布株式会社(英語の名称はTAKEYARI CO. LTD.)の名で署名し、調印した。

契約書を履行していた時、被申立人は全部英語のTAKEYARI CO. LTD.)の名を使っていた。提供してくれた伝票と領収書も全部この英語の名である。それに申立人と被申立人が付き合っていた時、武鑓織布株式会社にしてもタケヤリ化成株式会社にしても対外英語の名称は全部TAKEYARI CO. LTD.で、武鑓織布株式会社をタケヤリ化成株式会社に改めたことを被申立人は申立人に知らせなかった。

2、被申立人が交付した設備は数量も足りないし、品質も悪い。被申立人が交付した編み袋製造設備が二三箱あるが、商検部門の検証によると、そのうちボルト一つ、特性のカバー一セット、高圧ゴム管¢八―三〇m流通口一件欠けていた。被申立人が交付した園織機三八台のうち、三八台のフリケンシー、コンバーターが欠けていた。被申立人の交付した線引き機と整経機などの設備は契約書の規定した技術指標に達していなかった。被申立人の派遣してきた技術者のすえつけと試用によって、みんな検査の上引き取るにパスできなかったのである。設備は上述した問題があるので、被申立人はすえつけた設備を契約書に規定した技術要求に達させることができなかったわけである。被申立人は申立人の損害の補償として値下げせざるを得なかった。

3、被申立人が答弁する時、申立人側は、“基礎施設が完備でない(停電、停水など)とか能率が低いとか技術者のレベルが低いとか原料が足りない”とか言ったが、それは無根拠である。両方ともサインしたいままでの覚え書から分るが、被申立人側の人がすえつけたり試用したりする時は、申立人に上述した問題は一回も提出していなかった。申立人の使用者工場の基礎施設、水、電気などは一切問題ないのである。それとは逆に覚え書にははっきりと次のように書いてあった。試用情況がよくないと試用が中断したのは被申立人の交付した肝要な設備と肝要な部品ボルトの設計が合理的でないからであると。

一口に言えば被申立人が答弁書の中に書いた申立人への非難は事実に合わないのである。設備は契約書に規定した要求に達せない主な原因は被申立人の交付した設備に大きな欠陥があるからである。

申立人は開廷してからまた仲裁委員会に以下の仲裁請求を追加した。(一)申立人の使用者寧波プラスチック工場三場の設備を賠償協定どおりに検査の上引き取ることをしなかったことによる直接な損失人民元312,372.36元を被申立人が負担すること、(二)一台の園織機は使えないので、返還し、かつ被申立人は申立人に申立人の支払った三、六一三、五〇〇円払いもどすこと。

被申立人はさらに以下のように答弁した。

一九八七年三月九日の協定書には“寧波プラスチック工場三庁の設備がまだ使用中にかんがみ、双方はその設備を検査の上引き取ってから、時期を見て、別にまた協議をすることに話を決めた”と書いてある。しかしこの協定書を結んでから、申立人はこの工場の設備の点検の情況について被申立人に何の連絡もしていないし、被申立人に技術者を派遣してほしいと要求もしなかったし、勝手に設備の試用と回転をした。ですから申立人は被申立人に寧波プラスチック三場の損失を負担してもらうのは理由がないのである。仲裁廷にこの請求を却下することを請求する。

二、仲裁廷の意見

1、申立人と被申立人の間に調印した編み袋生産設備を導入する協定書と契約書は法律上成立し、かつ有効である。協定書と契約書を結ぶ時、被申立人はこの協定書と契約書はもうタケヤリ化成によって執行されることに変わったということを申立人に知らせなかった。協定書と契約書を執行していた時、被申立人は武鑓織布株式会社とタケヤリ化成株式会社の名称を交替に使ったことがあるが、両者の英語の名称はみんなTAKEYARI CO. LTD.である。それに武鑓織布株式会社とタケヤリ化成株式会社のアドレスも電話番号も同じである。被申立人の書いた小切手も伝票も領収書もTAKEYARI CO. LTD.を使っていた。賠償協定書を履行していた時にも被申立人はTAKEYARI CO. LTD.の名義でお金を払い戻した。被申立人内部では協定書と契約書の規定した義務をタケヤリ化成に渡したという決定は申立人に知らせもしなかったし、申立人の許可も得ていないから、もちろん申立人に何の拘束力もないのである。

ですから、被申立人はもう本案の当事者でないから、協定書と八五G〇〇七番契約書と八五GIM〇〇九番契約書に法律上の責任を持っていないという主張は成立できないわけである。被申立人は本案の当事者である。

2、被申立人の提供した設備は技術性能の面で八五G〇〇七号契約書と八五GIM〇〇九号契約書の要求に達せなかったので、申立人は線引き機とその部品、整経機とその部品、自動送料機、ミキサー、温度機、タニルテスト機などの設備について賠償として値下げを要求した。

それに賠償の具体的な細目と方式について被申立人と一九八七年三月九日に賠償協定書を契約した。この賠償協定書は双方の意見が一致した表れであるから、法律上有効である。まして賠償協定書を契約してから、被申立人はもうこの協定書の賠償を一部履行した。よって被申立人はこの賠償協定書を続けて履行すべきである。

3、申立人は補充請求の中で被申立人にその使用者寧波プラスチック工場三場の経済欠損人民元312,372.36元と一台の園織機の商品代金三、六一三、五〇〇円を賠償してもらうと要求したが、申立人は賠償協定書の規定に従わず、正式に検査の上引き取ることをしていない内に勝手に設備の試用と回転をしたから、仲裁廷は申立人のこの二頁の要求を承諾しえないのである。

4、申立人のその他の請求も仲裁廷は考慮を払いえないのである。

三、裁決

1、被申立人は一九九一年三月三一日までに、申立人の浙江省軽工業品進出口公司に二四、七四三、〇九〇円を支払え。そして一九八七年五月一一日から実際に支払う日までの年利率八%の利息も合わせて支払え。

2、提供しなかったTOYOTAHIACE一二席マイクロバスの補償として、被申立人は一九九一年三月三一日までに申立人に二〇〇、〇〇〇元の人民元を支払え。当該人民元二〇〇、〇〇〇元は、支払日の為替レートによって日本円に換算して支払え。

3、被申立人は一九九一年三月三一日までに申立人に無償でPP原料一〇トンを提供する。提供できなければ、一九九一年三月三一日までに申立人にその補償として一、三〇一、五〇〇円を支払え。

4、申立人のその他の請求を却下する。

5、本件の仲裁費用28,452.58元は、すべて被申立人が負担する。申立人はすでに仲裁委員会に二八、四五二、五八元を前払いした。被申立人は一九九一年三月三一日までに申立人に人民元二八、四五二、五八元を支払い、申立人の立替えた仲裁費用28,452.58元を補償しなければならない。

6、上述した2、3、5項の金額につき、被申立人の支払いが期限を越えれば、月利率0.7%の金利も合わせて支払え。

本裁決は最終裁決である。

首席仲裁員 費宗

仲裁員 王益英

仲裁員 唐厚志

一九九一年一月三〇日 北京にて

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